2012年7月24日火曜日

ダークナイト・ライジング公開直前覚書 その1

いよいよ、4年の歳月を経て、ダークナイトの続編「ダークナイト・ライジング」が公開される。アメリカでは日本より1周間早く封切りされたけども、それと同時に色々な「動き」が起こり、正直滅入ってしまった。

とりあえず、週末の鑑賞に向けて、ポイントを整理していく。




その1.オーロラでの銃撃事件


しばしば、「歴史に残る映画」というのは登場するが、どのように歴史に名を刻むかは、様々な事例が考えられる。
例えば興行収入でトップ1になれば、数字として記録に残るのは当然。また、公開年のアカデミー賞を多部門で大量受賞することによっても、オスカーの受賞リストに名を残せる。

ただ、経済・娯楽としてではなく、文化・芸術視点で考える場合、歴史に残る映画とは「その時代に新たな価値観を提示する映画、新たな問いを発する映画、印象に残る表現手法を使う映画、前例のない何らかの衝撃を与える映画etc...」である場合が多い。「サイコ」や「2001年宇宙の旅」等が、そういった類に分類されるべき映画だ。そして、それらは、いくら儲けたかという尺度では図れない価値観の世界と言える。

ダークナイトはどうだろうか。
興行的にも成功を収めてはいるものの、どちらかといえば、後者の意味で歴史に残る映画かと思う。バットマンの宿敵ジョーカーを演じたヒース・レジャーは、16時間の連続撮影という強行スケジュールの中、クリストファー・ノーラン監督の指示により、シド・ヴィシャスと時計じかけのオレンジのアレックスを精神に宿して演技を続けた。その結果、心を病み、不眠症となり、ミシェル・ウィリアムスとの婚約は破棄となり・・・そのまま死の床についてしまった。ヒース・レジャーは、命を引換えにジョーカーを演じ、伝説を作ったと断言できる。その悲劇性が映画界に与えた衝撃は、当然大きかった。

では、ダークナイト・ライジングは?
ライジング公開に当たって、その期待度が並大抵のものではなく、当然ながら興行記録の更新が望まれた。しかし今年の春、正統派ヒーロー映画アベンジャーズが、超特大ヒットを飛ばした。アベンジャーズは、子供から大人まで楽しめる点、3D上映による割増料金を加算できる点で、「儲けやすい映画」である反面、ダークナイト・ライジングは暗くて大人向け、しかも2Dオンリー上映といったように、「儲けにくい映画」だ。それゆえ、アベンジャーズの記録を抜き去り、興行記録で歴史を塗り替えるのは難しいのではないかというのが大方の予想であった。 
そんな冷ややかな分析が成される中、ついに20日に公開され・・・全く不本意な形で、歴史に残るオープニングデイを迎えることになった。

20日の夜、「アメリカの映画館で、最新作上映中に銃乱射」というニュースの見出しを見た瞬間、ダークナイト・ライジングの事だとわかった。ヒース・レジャーに続いて降りかかった「人の命に関わる悲劇」。不謹慎とはわかっていつつも・・・ノーラン・バットマンシリーズは呪われているんじゃないか、と思わずにはいられない。
犯人のジェームズ・ホームズは「自分はジョーカーである」と名乗ったという未確認情報がある。「現実世界に本物のジョーカーが生まれてしまったというのか」・・・という危惧が拭えないが、実際はどうなんだろうか。
ダークナイト本編において、ジョーカーに心酔し市長暗殺に加担する男として「シフ」という妄想型統合失調症患者がいた。バットマンはハービー・デントに対し、「ジョーカーはこういう人間を仲間に引き入れるんだ」と言ってシフへの尋問が不毛である事を主張した。これ、要は「ジョーカーの哲学の本気でなびいてしまうのは、シフのように精神に以上を持っている人間ぐらいだ」と言って一蹴しているわけだ。銃乱射犯は、ジョーカー自身としてではなく、ジョーカーのフォロワーとして見るべきで、シフに近い存在だとして見るべきと思う。(マトリックスでも、同様に殺人事件が起こったという話を聞いたことがある。「自分は今マトリックスの中にいるんだ」と信じる人間が実際に人を殺して自殺し、マトリックスから脱出しようとしたのだろうか。)

歴史に残る映画とは、どうあるべきか。興行収入は、宣伝によってある程度上昇させられるが、人の心に残る映画となると、「人間を心酔させる魔力」を持つ映画でなければいけない。今回のライジングでの惨劇は、前作ダークナイトの議論を蒸し返すことになるだろうし、「ライジング上映中の悲劇」である以上、ライジング自身も社会歴史上の汚名を被ることは間違いない。
時代の先を行く映画というのは、メインストリームではありえない。ダークナイトやダークナイト・ライジングのような、普通の映画とは別の新しい尺度で検証される映画であって、その新尺度によって後の映画に影響を与えることになり、歴史の系譜を作る。すなわち、歴史に残る映画になるのでしょうな。



アメリカでのライジング公開後、さっそく批評家の分析が始まっている。右派メッセージが強いという意見が多数あるようだ。次はそのあたりを整理したい。


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