2012年6月17日日曜日

キャラの魅力で乗り切る「ダーク・シャドウ」


ティム・バートン監督「ダーク・シャドウ」を見た。
とても期待していたのに、結構ガッカリして劇場を出た。予告編を見た時は、キャラクター性、好みのキャスト等々、とても魅力を感じただけに、この落胆はしんどい。脚本がちょっとヒドイな。




<ストーリー> ーallcinemaより抜粋ー
 ”200年前、コリンウッド荘園の領主として裕福な暮らしを謳歌していたプレイボーイの青年バーナバス・コリンズ。しかし、魔女のアンジェリークを失恋させるという大きな過ちを犯し、ヴァンパイアに変えられ、墓に生き埋めにされてしまう。そして1972年、彼は墓から解放され自由の身となる。しかし、2世紀の間にコリンウッド荘園は見る影もなく朽ち果て、すっかり落ちぶれてしまったコリンズ家の末裔たちは、互いに後ろ暗い秘密を抱えながら細々と生きていた。そんなコリンズ家の末路を目の当たりにしたバーナバスは、愛する一族を憂い、その再興のために力を尽くそうと立ち上がるのだったが…。”


・テーマがバラバラ・・・
この映画には幾つかのテーマあるようなんだが、どうもまとまりが弱かったな。家族愛担当のコリンズ一家の面々、恋愛担当のベラ・ヒースコート、呪い&敵&エロ担当のエヴァ・グリーン嬢、そして背景にある70年代の雰囲気。
それぞれエピソードが独立していて、互いに依存する設定上の関係性がほとんど無く、ストーリーラインが分割されている。そうなると、個々のラインを描くのに必要な時間の尺が短くなる。尺が短いと、深掘りできず、ストーリーが浅くなる。そんな感じがした。

・活かせていない設定と背景
画面に出てきたわりに宙ぶらりんなモノが多かった。
主たるのが、ヘレナ・ボナム・カーター!家族じゃないし、物語のカギかというと、そういうわけでもない。彼女は一体何しに出てきたんだ!?ジョニー・デップのヴァンパイアとしての凶暴性を描きたかったのか?何か浮いてる気がする。あと無駄な船長設定のクリストファー・リー!会社再建にジョニー・デップの催眠術使ってたところを笑いにしてたんだろうか。全然ヒネリ無いってば。そしてそもそも、なんで1972年?これ別に現代でもよかったんじゃないか?監督自身のノスタルジックなエゴか?ちょっと分からなかった。

・これがやりたかっただけだろ
予告で大きなインパクトを受けた、ジョニー・デップとエヴァ・グリーンのエッチシーン。予告で紹介された内容以外に何の情報もカタルシスも無い。怪物同士がセックスしたらこうなっちゃいます!っていうギャグを撮りたかっただけなんだろうって気がした。そりゃ確かにあのシーンは面白かったけど、物語上の必然性は弱いでしょ。憎んでいても押し倒してしまう魔性の女を描きたかったとか?ちょっと弱いなぁ。

・とはいえ、素材はGood。
素材がしっかりしていただけに、予告編では表面的な華やかさが目立ったんだね。とっても残念。ただ逆に言えば、素材はしっかりとしているので、キャラクター性からユーモアを感じて楽しめばいいかなと。元ボンドガールのエヴァ・グリーン嬢は相変わらず素敵だし、キック・アスのファンならクロエ・グレース・モレッツが出ているというだけで興奮すること間違いなし。自分の場合、リトル・チルドレンのぶっ飛び変質者やウォッチメンのロールシャッハで知られているジャッキー・アール・ヘイリーが出ているのは、とってもワクワクしたし、あのコミカルさは好感が持てたよ。


2012年6月2日土曜日

アンチ・ノスタルジーの秀作「ミッドナイト・イン・パリ」

ウディ・アレン監督「ミッドナイト・イン・パリ」を観てきた。今年のアカデミー賞でオリジナル脚本賞を受賞した話題作。そこそこの期待をかけていたところ、思った以上の良い出来で、とても楽しめた。





<ストーリー> ーallcinemaより抜粋ー
 ”ハリウッドでの成功を手にした売れっ子脚本家のギル。しかし、脚本の仕事はお金にはなるが満足感は得られず、早く本格的な小説家に転身したいと処女小説の執筆に悪戦苦闘中。そんな彼は、婚約者イネズの父親の出張旅行に便乗して憧れの地パリを訪れ、胸躍らせる。ところが、スノッブで何かと鼻につくイネズの男友達ポールの出現に興をそがれ、ひとり真夜中のパリを彷徨うことに。するとそこに一台のクラシック・プジョーが現われ、誘われるままに乗り込むギル。そして辿り着いたのは、パーティで盛り上がる古めかしい社交クラブ。彼はそこでフィッツジェラルド夫妻やジャン・コクトー、ヘミングウェイといった今は亡き偉人たちを紹介され、自分が1920年代のパリに迷い込んでしまったことを知るのだった。やがてはピカソの愛人アドリアナと出逢い、惹かれ合っていくギルだが…。


●豊かなキャラクター
現代描写、1920年代描写、ともに適度にユーモアがある良いシナリオ展開で、とても面白かった。中でも、主人公と有名なアーティストとの掛け合いは新鮮かつ自然で、まるで自分もその雰囲気の中に一緒にいるような感じがする。風景や人物設定等、細かいディテールまでこだわっていることで、説得力を与えているんだろう。
あまり評価の対象にはなっていないようだけども、オーウェン・ウィルソンの三枚目演技が、主人公ギルのイメージと無茶苦茶ハマっていてとっても良かった。ちょっと抜けていて、夢見がちなのに踏み切れない感じがあって頼りない反面、根は真面目で憎めない。そんな性格なのが本作の主人公ギル。バカすぎず、マジメすぎない感じを上手く演じてくれたと思う。
また、フィッツジェラルド役でトム・ヒドルストンが出ていた。彼はものすごく顔力の強い俳優だね。本作や戦火の馬のようなサワヤカな役も、マイティ・ソー、アベンジャーズのロキのような敵役も務まってしまう。あの特徴のある顔立ち・大きな目が、キャラクター作りに役立っているのだと思う。ダリ役のエイドリアン・ブロディもなかなか良かった。ダリの特徴ある雰囲気は真似しやすいのかもしれんが。そして、マリオン・コティヤール嬢は相変わらず美しく、場の空気を変えてしまうほどの存在感を放っていた。

以下ネタバレ。

●主人公の気付きと旅立ちの話
とはいえ、本作でもっとも気に入ったのは、物語の主張するテーマだ。最も輝いていた1920年代のパリに来たギルは、その時代で知り合った女性アドリアナとともに、更なる過去・1890年代へ迷い込んでしまう。するとどうだろう、アドリアナは1890年代は最も素晴らしく、1920年代は退屈だと言う。ギルは、アドリアナの考えに驚くが、やがて気づく。「どんな時代の人でも、過去を美しく観て、自分の時代に希望を見出そうとしない」ということを。そして彼は、アドリアナ=1920年代のパリとの別れ、「現代のパリ」の地に脚を踏みしめ、前を向いて人生を歩んでいく決意をする。今後もしかして、何十年後の人々から、「2010年代のパリは黄金時代だった」と語られる日が来るかもしれない。いや、そうに違いない。だってそこは、誰もが憧れる「世界一の都・パリ」なのだから・・・。

●アンチ・ノスタルジー
過去に戻って偉人たちとのドタバタを楽しむノスタルジックなファンタジー映画かと思いきや、なかなか人生訓に満ちた深い映画だったと思う。本作を見ると、「三丁目の夕日」と「オトナ帝国」の対比論を再び思い起こされた。「三丁目の夕日」シリーズは、妄信的とも言える程のノスタルジー迎合映画だ。過去を振り返り、ただひたすら素朴さ、美しさ、懐かしさを描くことで、現代を生きる大人たちを虜にした。
一方、アンチ・ノスタルジーの傑作として有名なのが、「クレヨンしんちゃん・嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」だろう。昭和の古き良き時代を復活させようとする敵と、来る未来を守ろうと立ち上がった野原一家との戦いを描いた映画。本作ほど未来への希望を持たせる映画はそうそうは無い。
人はだれでも、昔を懐かしんだり、「あの頃は良かった・・・」等といって現代を悲観的に見る時がある。でも、そんなイメージは得てして美化されたもので、その時代にはその時代の嫌なことや苦労があったはずだ。本作にあるように、その時代に人も過去を夢見ていたかもしれない。つまり、過去への憧れは、いつの時代の誰もかもが持ちうる幻でしかないのだ。

美しき過去の記憶に囚われず、自信を持って現代を生きる事こそ大切なのだと教えてくれる作品が、自分は好きだ。それが、オトナ帝国であったり、このミッドナイト・イン・パリであったりする。我々の実際の生活に強いメッセージを送ってくれる映画がもっと作られて、もっと人々の目に触れ、正当な評価を得てくれるといいのに。