2012年10月16日火曜日

アウトレイジ・ビヨンド 〜人付き合いのバランス〜




アウトレイジ・ビヨンド、とても面白かった!




世間では、「前作より格段に良くなった!」という論調が目立つ。
確かに、1作目より「ビヨンド」の方がストーリー展開が良かったかな。

でも個人的には、1作目も「ビヨンド」も両方同じく面白い。
だって、アウトレイジの楽しみ方は、ドラマ性や暴言合戦だけじゃないから。





アウトレイジのウリと云えば、
バカヤロー・コノヤローの連呼連発、そして血みどろのエグい残虐描写でしょう。
ライトな映画ファンがアウトレイジを毛嫌いするのは、
この辺りの表層部分が受け入れられないからだ。


確かに、彼らは異常な世界を生きている。
でもだからといって、彼らの「思考回路」が異常かというと、そうではない。
暴力描写を抜きにして、単純にドラマツルギーだけ追っていくと分かる。
彼ら登場人物は、ヤクザの世界の法則・価値観・人間関係を、
極めて論理的に、理性的に、ビジネスライクに処理してる。

”ここまでやったら、こっちは何をする。”
”こっちは何をするから、相手はどこまでどうする。”
”ここまで来たあたりで、相手の裏をかく”
これら組同士の争いは、国家間の外交や、企業競走を思わせる。
そして、ちょっとでも欲を見せようものなら、瞬く間に殺されるあたりは、
相手への誠意がいかに大事かを改めて感じる。木村だって、欲を見せたんだし。
この微妙な因果応報的な「バランス感覚」が、
狂気の罵声の中に心地よさを与えてくれるんだ。

彼らは決して異常者でもサイコパスでもない。
僕らと少しだけ世界観が違うところで生きている”常識人”なんだ。



いやいや、それどころか・・・
常に覚悟を決め、
日常的に死を想い、
責任を感じ、
ここぞという時に勝負をし、
自らの過ちには潔くケツをまくれる人達が、いかに清々しいかが見て取れる。

逆に、素晴らしい人達だよ。

組同士で騙し騙される展開が怖い?なるほど、そりゃそうだろう。
でも、それは僕らの日常も同じじゃないか。
ウワサ話が好きな近所のおばちゃんが、
見えない所で僕らの陰口をたたいているかもしれないだろう?
会社で、
自分にどのようなレッテルが貼られているかなんて、わからないだろう?
人間みんな、裏じゃ何を言われているか分かったもんじゃないよ。


アウトレイジは、鑑賞者それぞれの「恐怖の日常」のメタファーを含んでいて、
その中で我々が、どのようなスタンスで向きあえばいいのか考えさせられる作品だよ。
(ちょっと救いが無さすぎかもしれんが。)

勿論、脚本を北野監督が書いているからそうなるだけであって、
本物のヤクザの実体なのかは別の話かな・・・。




まぁこんなところだけど、
加えて言うなら、キャラクター性も魅力的。
全員悪人のアウトレイジだが、それぞれの俳優が、
各人の個性をうまく生かした悪人演技をしているように見えて、とても良い。

1作目で言えば、椎名桔平、北村総一朗、
「ビヨンド」なら、花菱側を演じる西田敏行と塩見三省がお気に入り。
両作通じて言うなら、加瀬亮や小日向文世も、自身のキャラとイメージがマッチする。

とくに「ビヨンド」での花菱の2人は強烈に怖い。
塩見演じる中田は、見た目からして完全に本職でしょう。
一方、西田演じる若頭・西野は、
体をユラ〜リと揺らし、首と肩がダルそうに傾いているところが秀逸。
不気味さを感じて寒気がした!

彼らのキャラ性と、丁々発止の暴言連発。
かっこ良すぎるね。
予告編やポスターが、まるでヒーロー映画のように本当に素敵だ!

こんなに良いキャラを作っているのに、
ストーリーが進むに連れて、
主役級の名優達がゴロゴロ死んでいくのは圧巻。(前作も同じか・・・)
でも、もし次回作があるのなら、また新しいきゃストを加えればいいだけの話か。

アウトレイジシリーズは、日本映画におけるエクスペンダブルズなのかもしれない。
名優を消耗品軍団に変える映画ってな。
 

2012年10月1日月曜日

ボーン・レガシー 〜この世は全て相対評価〜


<ネタバレあり>


ボーン・レガシーは、つまらないわけじゃない。
一応、おもしろい。
でも、ボーン・アイデンティティーと同程度。まぁまぁな作品。


ボーン・アイデンティティーは、
マット・デイモン/ジェイソン・ボーンの1作目。
今回も、ジェレミー・レナー/アーロン・クロスに主役が入れ替わって1作目だ。
本作がまぁまぁでも、前と同じ状況じゃないか。


・・・とは、いかないだろうな。
多分、めちゃめちゃ批判されると思う。


本作が「マズい」のは、
シリーズ1作目の”アイデンティティー”以後に続いた、
”スプレマシー”、”アルティメイタム”といった傑作アクションを踏まえた上での、新たなるスタート!!

・・・という位置づけだった点だ。
”アイデンティティー”とは置かれた状況が違っていて、かなり分が悪いよ。
批判に耐えてくれよ?ジェレミー・レナー!!



この”レガシー”。何が悪いって、シリーズの大黒柱たる脚本が悪い。
ボーン・シリーズとしては致命的。
”スプレマシー”以後極まってた「論理・必然・現実感」の神シナリオが、
明らかに劣化してる。


前三部作は、ジェイソン・ボーンの完璧な判断力と戦闘力が魅力だった。
しかし今回、
アーロン・クロスの判断力や戦闘力が完璧なのかどうか、よくわからない。
動機やシチュエーションの描き方が雑で、
観客が状況を掴み切れない状態のまま話を進めてしまうから、
アーロンがどれだけ凄い判断力と戦闘力を見せつけても全然伝わらないんだ。


例えば、
アーロン・クロスの行動動機である薬のくだりとか明らかに説明不足・伏線不足だし、
リック・バイヤー(エドワード・ノートン)の設定や位置づけがピンとこないし、
研究所で暴れた所員の説明が雑すぎるし、
アーロンを追う敵工作員が、全然怖くない。つうか、白い歯見せながら怒って追跡する姿が人間兵器に見えずショボイ。「ボクチャンもう怒ったぞゾ!」って言ってる気がするんだもの。スゲー小物っぽい。
etc....

こういう細かいツッコミどころは、どんな良作にも1つ2つはあるものだけど、
多くなればなるほど、観客はついていけなくなり、
ストーリーが観客を置き去りにしてしまう。
だから無視はできない。

監督のトニー・ギルロイって
”スプレマシー”や”アルティメイタム”で脚本やったはずだが。
監督業やって、ヘンな折り合いつけちゃったのかな?
やっぱりポール・グリーングラスの帰還を願うしかないか。(・・・無理だろうな)

つまり、
ボーン・レガシー凡作になってしまったのは、裏方の責任だ。
しかも、前三部作との比較の結果、相対評価としての凡作。


だから・・・俳優陣は悪くない!
ジェレミー・レナー自身はしっかりやっててカッコ良かったと思うし、
レイチェル・ワイズも、さすがオスカー女優だと思った。

まぁ、レイチェル・ワイズ/シェアリング博士のパニック演技は正直ウザイけど、
あれも脚本のせいだ。
彼女の心の傷を大して描いていないクセに、パニックシーンだけ妙に長くて、
クドイんだ。


あー、この感じ、ダークナイト・ライジングと同じだ。

このやるせない感の矛先を何処へ向ければ・・・?