2012年5月6日日曜日

久々の良品発掘「おとなのけんか」

ロマン・ポランスキー監督「おとなのけんか」を見た。
 ジョディ・フォスター、ケイト・ウィンスレット、クリストフ・ヴァルツといったオスカー受賞経験者が名を連ねるにも関わらず、賞レース殆ど入り込めていなかった作品。しかし作品レビューを見るとソコソコに高評価だったので、試しに鑑賞してみることにした。するとこれが大当たり。なかなか楽しむことができた。




<ストーリー> ーallcinemaより抜粋ー
 ”ニューヨーク、ブルックリン。11歳の子ども同士が喧嘩し、片方が前歯を折るケガを負う。ケガを負わせてしまった側のカウアン夫妻がロングストリート夫妻の家に謝罪に訪れ、和解の話し合いが行われる。お互いに社交的に振る舞い、話し合いは冷静かつ友好的な形で淡々と進んでいくかに思われたが…。”


 本作は、最初から最後までジョディ・フォスターとジョン・C・ライリー夫妻の自宅の一室で物語が展開される。4人の行動のみしか描いていない。レザボア・ドッグスやキサラギを思い起こさせる。調べると、もともと原作は舞台劇なのだそう。であれば確かにこのシステムを頷ける。
 ただし映画でこれをやってしまう場合、舞台劇の味とされる”誇張された脚本・演技”をそのまま移植してしまうと、不自然さが現れるんだな。映画のなかで、ケイト・ウィンスレットとクリストフ・ヴァルツは何回も部屋を出て帰宅しようとするのだけど、なんだかんだ話がこじれて、また部屋に戻ってくる・・・というのを3〜4回繰り返す。これが舞台上で繰り広げられたなら、とてもユーモアがある”台本”だと楽しむことができるのだろうけど、映画で、映像として見てしまうと、舞台上の誇張演出が逆に「白々しさ」みたいなものに変換されてしまう。一応ソレが目立たないようにシナリオは工夫されていたけど、限界があったようだ。こういう場合、あえてカメラアングルを限定的にして、カットを長くしたりすれば、擬似的に舞台劇風な体験をさせて、誇張演出を肯定できるのではないだろうかと予想したんだけども、甘いかな? それか、部屋を出ていくと思わせる展開をもっと減らすとかか?

 とはいえ、4人の会話そのものは非常に面白い。
 事前情報からの自分の予想では、2つの家庭の子供同士のけんかに端を発する2つの夫婦の”冷戦”が主テーマで、お互いの本音が徐々に現れてくる過程を楽しむように描かれたシナリオかと思いきや(勿論それもあるけども)、実際には話の論点はあちこち飛び、そのたびに、2夫婦のなかで敵味方が入れ替わり、はっきり言って子供の話は相当時間そっちのけ。2夫婦の抗争が、やがてそれぞれの夫婦喧嘩に発展したり、もう無茶苦茶。でもそうやっていろいろな会話が広がるなかには、クスッと笑わせる展開をイチイチ準備していて、まったく退屈しなかった。
 個人的に一番面白かったのは、クリストフ・ヴァルツ扮する弁護士だ。最初は、夫婦間の話し合いの場でも仕事の電話ばかりしている常識の無い冷徹な人間に見える。しかし周りの感情が高ぶってくると、もっとも冷静沈着でクールな存在に見えてくる。でもその後、携帯電話(ブラックベリー。いかにもだな。)を花瓶の中に突っ込まれてしまうと、一気に感情が爆発して怒り出し、直後に呆然と床に座り込んでしまう。そんな、あっちこっちにブレブレする様子が面白かった。ジョン・C・ライリーが酒を誘った時に、悪びれずに酒をもらっていた様子も思わず吹き出したな。あとは、ケイト・ウィンスレットのゲロがジョディ・フォスターの持っていた画集にBECHOOOOOOっとかかるところ、エグイけど最高だった。あー、こまかいトコロを言い出したらきり無いな。

 まぁとはいえ、子供を持つ親御さんはとても共感できる内容なのではないかと思う。子供が何かを起こした時、「子供づたいでなければ出会うことのない、全く価値観の違う家庭との仮面をかぶったお付き合い」が強制されるのだから。ましてや、トラブルなど起こってしまうと、険悪になるのも仕方ないもの。険悪にならなくても、普段からそういったお付き合いに疲れている夫婦がほとんど。それを惜しげもなくさらけ出し、本音をぶちまけ合う本作は、そういった人達のストレス発散になるんじゃないかな。


0 件のコメント:

コメントを投稿